Kaki Kotoba no Hanashi Kotobaka (Natsumi Koda)
Makalah ini telah dipresentasikan pada Seminar dan Lokakarya Asosiasi Studi Pendidikan Bahasa Jepang Korwil Jabodetabek XII, Universitas Darma Persada, 4 Oktober 2012
書き言葉の話し言葉化
BINUS大学 甲田菜津美
Summary
In these days, thanks to the development of the Internet, the number of users of Social networking has been increasing. With it, many Japanese learners watch and use Japanese frequently, too. We can use SNS with good effect in the class.
But we don’t use “written language” but “spoken language” in SNS. Therefore, Japanese learners are mixed up in written language in Japanese. As a result, they use “spoken language” in Email. In this article, I consider what is a problem for them taking up some email from students. In addition, I introduce the significance of teaching TPO.
Key words : Written language, Spoken language, SNS, TPO
1.はじめに
現在、インターネットの普及により、多くの日本語学習者がインターネットを利用している。さらに、ソーシャルネットワーク(以下SNS)の普及も急速に進み、手軽に他人とコミュニケーションがとれるようになった。SNSでのコミュニケーションは、主に文字によるものである一方、チャットなどの機能では、話し言葉の文字化にすぎず、書き言葉とはいえないものである。一方、Eメールにおける言葉というものは、書き言葉である。この書き言葉であるEメールがSNSの出現により、話し言葉化することが危惧される。とはいうものの、SNSの利点も多数存在する。特に、インドネシアではインターネット利用者のうち、91パーセントがFacebookを利用している。人口にして約3千万人が利用していることになる。このSNSをうまく利用することで日本語学習者の日本語力も向上させることができる。本稿では、SNSの利点・問題点をあげ、実際の日本語学習者のメール、SNSでの文を取り上げ、問題点、改善点、そして授業での取り組み方の提案を考察する。
2.先行研究―話し言葉と書き言葉の相互関係―
山本・大西(2003)では、書かれた文章に見られる話し言葉と書き言葉の使い分けの実際を考察、また、音声によるニュースと、文字によるそれの使用される言葉を比較、分析している。
日本語学習者が、習得困難な学習項目と考えているものとして、「敬語」「文法」「オノマトペ」「男性語・女性語の違い」などがあげられており、話し言葉と書き言葉の使い分けは学習困難事項にあげられることは稀である。しかし、それは話し言葉と書き言葉の使い分けが日本語教育の中で十分に指導されていないだけであり、話し言葉と書き言葉の使い分けができる学習者は、敬語が使い分けられる学習者以上に少ない事実がある。敬語などの、学習困難事項にあげられるものは、体系的に教育され、学習者自身でも習得しているか否かが認識しやすい。しかし、書き言葉と話し言葉の使い分け、両者の相関関係の研究は他の学習項目に比べるとまだまだ発展途上段階である。このことから、日本語学習者自身が話し言葉と書き言葉の使い分けが習得できていると思いがちになってしまう。日本語において、話し言葉と書き言葉は、前者が「話された言葉」、後者が「書かれた言葉」と位置付けてしまうには、あまりにも雑である。日本語母語話者は、話す場でも「書き言葉」を、書く場でも「話し言葉」を使用する。話し言葉を使用するのか、はたまた書き言葉を使用するのかという使い分けは、文化的慣習の要求に従ったコードスイッチングの表れであると言える。話者は言語表出に際し、文化的慣例に従ってどのスキーマ(人が外界を認知する際の枠組みとなる知識構造)を採用するかを選択している。このコードスイッチングは、日本語教育現場では、非常に大雑把な枠組みでは指導されているが、どのような慣習がコードスイッチングをもたらすかという、文化的背景や日本語母語話者の繊細な心情変化による言葉遣いの変化については指導されない。この指導は学習者のレベルが上がっていくにつれ、詳細な指導が必要である。
これらのコードスイッチングは、言語主体と事態の心的遠近関係、そして場との関係から生まれる日本語の特性であるポライトネスが、話し言葉と書き言葉のコードスイッチングで行われているといえる。
3.SNSの利点・問題点
本章では、SNSの中でもフェイスブック(以下Facebook)の利点、問題点について考察する。
3.1.Facebook普及の背景・利点および問題点
Facebookとは、気軽に自分のステータスや写真がアップロードでき、また、グループを作成することで、グループ内で必要な情報をシェアしたり、クエスチョン機能による意思確認をすることができるものである。2010年には、フェイスブックの創始者であるマーク・ザッカーバーグを主人公としたFacebookができるまでの話を題材にした映画[1]も公開されるほど、世界中の人々に使用されている。インドネシアにおいても多くの人がFacebookを使用しており、その使用率は、インターネット利用者のうち91%を占めており、約3千万人が利用していることになる。これは、世界的に見ても、非常に高い使用率であり、世界で第3位である。これには、スマートフォン利用者、特にBlackBerry利用者の増加も関係しているものと考えられる。インドネシアでは、Blackberryのシェア率は約22%である。さらに、Blackberryには独自のBBMと呼ばれるメッセンジャーがあり、PIN番号を交換するだけで、気軽にチャットができるアプリが存在する。さらに、個人同士のみならず、グループを作成することで一斉送信やグループ内チャットが可能である。スマートフォンの普及により、外出先からでもインターネットに接続することができ、気軽にSNSを使用することができる。さらに、インドネシアにおいて、スマートフォンで利用するコンテンツの割合はSNSが過半数を占め、一日に6回以上Facebookを確認する利用者は全体の40%以上という高い結果が出ている。(独立行政法人日本貿易振興機構(2012)による)
Facebookにより、世界中の人とつながることができるので、日本語学習者は日本人と友達になることにより、日本語を気軽に目にすることができるようになる。さらに、気軽にメッセージが友達に送ることができ、それは、メールとは違い、話しているような感覚で相手に文字を送ることができるものである。気軽にメッセージを送れるという利点の一方、日本語における話し言葉と書き言葉の混同を招くこともまた然りである。つまり、Facebookにおけるメッセージや書き込みと、メールにおける文を混同してしまう学習者が出てきてしまっている。つまり、山本・大西(2003)でいわれているコードスイッチングができず、混同してしまう学習者が出てきてしまったのだ。また、電話などと違い、時間を気にせずいつでも好きな時に、誰にでもメッセージが送れてしまうので、特に目上の日本人に対してのTPO[2]が崩壊しつつある。問題点を解決するための取組提案は、5章で述べる。
3.2.授業でのFacebook使用例
本大学では、Facebookのグループ作成機能を利用し、授業の各クラスでグループを作成している。主に、宿題の詳細や教室変更、参考資料のシェアをグループ内で行っている。この機能により、聞き逃してしまった学習者や欠席していた学習者も授業での情報を手にすることができる。さらに、学生同士でも日本語に関する情報などをグループ内でシェアすることもできる。その場合は必ず日本に関するものであること、そして日本語で書くことが要求される。大学内でのWEBサービスもあるが、気軽に閲覧できるFacebookでの情報の方が、学習者の目にも入りやすく、情報を見逃してしまうことも少なくなる。
また、メッセージ機能を利用して、日本語や日本文化に関する小さな疑問についてネイティブ教師に気軽に質問することができる。特にテスト前は、学習者たちは疑問を解消しようとメッセージを普段以上に送るようになる。この場合すべての学習者は、直接話しているような日本語によって質問する傾向がある。つまり、文字ではあるが、話し言葉なのである。
この文字の話し言葉化現象は、書き言葉であるはずの手紙やメールに影響を与えている。その影響は、次章で例を挙げながら、考察する。現在では、ほとんど手紙を書く機会がなく、書き言葉の通信手段としてはメールでのやりとりがほとんどである。メールとFacebookメッセージは、PCを使って文字を書くという点では共通のコミュニケーション手段だ。しかし、メールに話し言葉を持ち込むのは、TPOに違反していることになる。というのも、手紙とメールは通信媒体は違うものの、ほぼ同様の機能をしており、書き言葉というある一定のルールに則った言葉を使用しなければならない通信手段であるからだ。つまり、メールは「書き言葉」であり、チャットやFacebookのメッセージは「話し言葉」なのである。
4.メール・メッセージの実例考察
メールの内容であるが、メールは件名・本文から成り立っており、場合によっては添付ファイルを添付することもある。件名は、具体的で分かりやすいものが望まれる。件名はメールの顔であり、件名によっては相手に読んでもらえないこともあることを念頭に置いておかなくてはならない。次に本文であるが、本文は、相手の名前(対外メールの場合は役職も)を筆頭に、文末には自分の名前(役職など)を書かなくてはならない。本文がないメールなどは論外である。本文の文体であるが、これは言うまでもなく、書き言葉を使用しなければならない。いくら親しい相手であっても、TPOをわきまえ、礼儀が必要なものがメールである。また、添付ファイル名であるが、誰の何であるのかが分かる名前をつけなくてはならない。同様のファイルが相手先に集中することが予想される場合は、自分の名前を明記しなければ、受信相手が混乱してしまう。メールというものは、自分のためではなく、相手に読んでもらうためのものであり、分かりやすく具体的に作成するべきものである。
本節では、実際に学習者から送られてきた、主に卒業論文の概要の依頼のメール・メッセージをあげ、問題点を指摘する。
4.1.事例1―マヤ[3]のケース―
題名 | 論文の概要 |
添付ファイル名 | Gaiyou.doc |
今晩は先生、 |
先生このメールで私は概要も送ります。
この時間に概要を送るので、申し訳ございません先生。
(T-T)
でも、明日先生に行ってもいいですか?
すみません先生。
Best regards,
マヤ
この学生からのメールは比較的問題の少ないものである。しかし、指摘する点がいくつかあるので、順に考察していく。
まず、題名であるが「論文の概要」だけでは、内容が伝わりにくい。具体的に述べるためには「論文の概要の訂正願い」などと用件を付け加えれば、より分かりやすいものとなる。
次に添付ファイル名の「Gaiyou」であるが、誰からの概要であるのかわかりやすくするために「概要(マヤ)」とするのが適当であろう。
本文であるが、「今晩は先生、」は「○○先生」するべきである。どの先生に送ったものなのか明確にし、改行後に「こんばんは。」を記入する。文法については本稿では研究対象に入れていないが、「申し訳ございません」という言葉は、日本語には存在しないので、書くのであれば「申し訳ありません」にしなければならないことに触れておく。
顔文字(T-T)を本文内に入れているが、顔文字は友人へのメールで使用するのはよいが、親しい目上の者に対してメールで使用するのは、失礼に値する。また、「?」などの記号も使用するのは好ましくない。日本語では、本来「?」などの記号は書き言葉では使用しないことになっている。
そして最後に「Best regards,」と英文メールでは必須とされる結びの言葉が使用されているが、おそらくこの学習者はこの「Best regards,」に相当する日本語を思いつかなかったために使用したと考えられる。時と場合にもよるが、この場合であれば、「お忙しいと思いますが、チェックよろしくお願いいたします。」で十分であると思われる。もし、「Best regards,」に相当する日本語を使用するのであれば、「時節柄、ご自愛くださいませ。」などという決まり文句が存在する。目上の者に対するメールの場合は、このフレーズを使用することが多い。
4.2.事例2―ルディの場合―
題名 | sensei kore wa boku no revisiiiiiiii |
添付ファイル名 | Rudi Wijaya 1200972663 |
<本文なし>
このメールが送られてくる前、添付ファイルの内容について、この学習者と直接話し合っていた。そして、添削が終わったら、ファイルをもう一度送るよう要求した直後のメールである。
まず、本文がないことに驚きが隠せない。いくら伝えることがなくとも、本文を書かないというのは、失礼に値する。たとえば「○○先生 添削したファイルをお送りします。よろしくお願いいたします。 △△」という一言でも書くのが礼儀である。
さらに、題名であるが、一人称に「ぼく」を使用している。書き言葉では、たとえ普段の会話での一人称が「僕」であっても、一人称は少なくとも「私」にしなければならない。また、題名というものは、本文の内容をわかりやすくまとめたものである。本文ありきの題名である。「Sensei kore wa boku no revisiiiiiii」というのは、いくら日本語が打てなくても、本文に相当するものである(とはいっても、使用語彙は書き言葉ではない上にポライトネスが一切ないので、書き言葉に変える必要がある)。ここでは、題名は「チェックのお願い(Rudi Wijaya)」と書くのが、無難であると考えられる。送ったメール、及び添付ファイルをどうしてほしいのか、という事をわかりやすく一言でまとめる必要がある。
ただ、添付ファイル名に自分の名前を明記しているところは評価すべき点である。ファイルを添付する際、特に多くの人から、一人の相手に同様のファイルが送付されることが予想される場合には、「自分の名前」をファイル名に入れておく必要がある。
本節の事例のように、本文は何も書かずにファイルのみを添付してくる学習者が後を絶たなかった。次節の例は同じような事例である。
4.3.事例3―アミの場合―
題名 | 概要―アミです |
添付ファイル名 | GAIYOU.docx |
<本文なし>
このメールが送られてきた直後にメッセージがFacebookに送られてきた。以下は学生と筆者のやりとりである。
アミ1 | 先生、私の概要を先生のメールに送ってしまいました。チェックしてくれてありがとうございます。^^ |
お返事まっています。:)筆者2アミさん、メール受け取りました。
明日か明後日、大学に来られますか。
アミ3あ、あさって、大学に行きます。2時ごろ。筆者4分かりました。では、金曜日の2時過ぎに来てください。アミ5はいいい。
このように、メール本体には何も書かず、メールを送った直後にFacebookのメッセージに本文の代わりのものを送ってくる学生が全体の3割程度を占めた。前節の事例と同様、本文がない。Facebookでのやりとりとメールが連動しているとはいえ、メールとFacebookは違うものである。このことを理解していない学習者が後を絶たない。つまり、メールもFacebookも同じなのである。
Facebookのメッセージ内容についてであるが、まず1の文で「チェックしてくれてありがとうございます」とあるが、まだチェックしていないにもかかわらず、感謝の気持ちを表すことは通常日本語では行わない。母語の干渉と思われるが、この場合は「チェックお願いします」で十分である。より丁寧にするのであれば、「お忙しいところ恐れ入りますが、」という文に続けることもできる。また、3・4では話し言葉がそのまま文字化している。「あさって2時ごろ大学に行きます」「はい」でいいところを、実際に話しているかのように3では「あ、」とつけたり、倒置を行っている。さらに4では「い」を重複させることであたかも話しているかのように表記している。しかし、内容は「依頼」、相手は「先生」である。TPOをわきまえなくてはならない現状だ。
5.実践提案
前章であげた例は学生からのメールの一部にすぎないが、多くの学生が同様の内容のメール、メッセージを送ってきた。これらは文法的な間違いではなく、文化的慣習の理解が不十分であるために生じたものであると考えられる。そこで、失礼にならないような内容のメールを作成できるよう、日本における文化的慣習、ポライトネスを指導する必要がある。さらに、作文の授業などで、実践することにも意義があると考えられる。その際にどこまで訂正すればよいのか、という疑念が浮かぶであろう。文法の間違いにばかり気を取られていれば、肝心なポライトネスの部分が疎かになってしまう。本章では、前半は文化的慣習の指導について、後半ではどこまで訂正すればよいのかについて、グローバルエラーとローカルエラーについて触れる。
5.1.TPOについて
TPOとは、Time(時間)Place(場所)Occasion(場合)の略称で、時と場合に応じた使い分けが必要であること、相手や手段に応じて言葉を使い分けることの必要性を説いた言葉である。TPOはメールに限らず、実生活の中で幅広く応用できることである。たとえば、夜10時に自宅電話をすることは夜遅いので、一般的にはタブーされているが、友人の携帯電話にかける場合や、緊急の場合であれば、許容される。また、一流のフレンチレストランに招待されたのに、Tシャツにジーンズで行くのではTPOがなっていない、と考えられる。
メールにおいても同様のことが言え、受信相手は誰なのか、メール内容はどのようなものなのか、時間は適切か、ということを念頭に置いて本文で使用する語彙や文体を考えなくてはならない。その際に、どのような文体が良いのか、どこまでが許容範囲なのか、という文体例をまずは、学習者が目の当たりにする必要がある。そして、見ているだけでは理解はできても、使用できるかは疑問である。そこで、一通りどのような文体が良いのかを学習した後、実際にロールプレイのように課題を与え、メールを作成し、教師に送信するという実践をすれば学習者の身につくと考えられる。また、誤用が出てきた場合は、授業内で訂正することで、どのような文が失礼にあたるのか、ということも実感できるのではないだろうか。さらに、作成したメールをペアで読みあい、どの点が良いのか、改善点はどこにあるのか、という事を話し合うピアリーディングを行うことで、より効果的になると考えられる。
また、学習者の中には、授業中にも平気で携帯電話に触れている者もいる。学習者のみならず、会社員などでも就業中に携帯電話をいつでも使用しているので、インドネシアの文化的なものもあるのかもしれない。スマートフォンのアプリの辞書を使用しているとも考えられるが、日本の教育現場ではこれはマナー違反になる。これも携帯電話使用のTPOが指導されていないからであると考えられる。JASSOでも、大学生の心得とマナーとして、携帯電話の使用について、以下のような項目があげられている。
① 使用禁止の場所では電源を切る。病院、図書館、授業中などは確実に切る。
② 電車・バス内での使用はマナモードにして通話は控える。どうしても通話する必要があるときは、通話口に手を当てて「電車内なので後から電話する」などと小声で告げ、すぐに通話をやめる。
③ 電車・バス内でもメールなら迷惑にならないと思いがちだが、電波が問題なのだから優先席付近では使用しないこと。
④ むやみに写真を撮らない。軽い気持ちでの撮影が思わぬ犯罪になる場合が多い。
⑤ 音楽・画像を楽しむ場合は、周囲への音・光漏れに十分配慮する。
⑥ 携帯電話は本人・他人の個人情報が記録されていることを強く認識し、管理を徹底する。
(独立行政法人日本学生支援機構「大学生のトラブル&マナーその事例と解決策」P22-23)
5.2.グローバルエラー・ローカルエラー
グローバルエラーとは誤用のせいで、発話・文の意味理解に支障をきたしてしまう誤用のことで、ローカルエラーとは、意味解釈にほとんど支障をきたさない誤用のことである。メールやメッセージにおける書き言葉の訂正は、文法自体の問題というよりも、ポライトネスの問題が大きいと考えられる。ローカルエラーより、言い方によっては相手に不快を与えてしまうであろうエラーについての訂正が必要である。これは、意味理解に支障をきたすと本稿では考え、メール内での失礼にあたる文はグローバルエラーととらえる。しかし、この考えが適応できる学習者レベルは、初級文法学習を終え、ある程度まとまりのある文が書けるようになった中級レベル以上であると考えられる。たしかに、初級レベルのうちからポライトネスや日本の文化的慣習を指導する必要はあるが、ある程度文が書けないことには、ポライトネスなどの指導以前の問題(文法事項など)が発生してくるからである。文法事項の訂正に作業を取られていては、本来取り上げたい相手に与える印象についての指導がしっかりできない。ここで、FonFの考え方を採用することができるであろう。「ここがだめ、これはいけない」と指摘するのではなく、「この言い方をすれば、相手はどのような気持ちになるのであろうか」といったような、相手の気持ちを考えながら、エラーを直すことが効果的ではないかと思われる。そのためにも前節であげた、ピアリーディングが効果的ではないだろうか。
6.まとめ
本稿では、特にインドネシアでのSNSの急速な普及に伴う、話し言葉の書き言葉への影響をはじめとし、実際の学習者からのメールとFacebookメッセージをとりあげ、話し言葉と書き言葉の違いを考察した。話し言葉と書き言葉の違いは文化的慣習によるものやポライトネスに関係するとし、TPOの考え方の指導、授業での取り組み方の一案を提唱した。
また、SNS、特にFacebookには利点も多く存在する。Facebook使用率が世界第3位のインドネシアならでは、といえるが、授業を円滑にする一手段としてFacebookの利点を有効に使用することもいいであろう。特にグループを作成し、必要な資料などのシェア、学習者相互に情報交換などの場を設けることは効果的である。インターネットが普及している現代であるからこそ、その通信手段を最大限に利用し、日本語学習者が日本語に今まで以上に触れる機会を提供することがこれからの教育現場では必要となってくるのではないだろうか。
日本には「親しき仲にも礼儀あり」という言葉があるが、この言葉は、インターネットがますます普及している現代社会において、日本語を学習するにあたってもう一度見直さなければならない重要なキーワードとなるものであろう。
本稿では、メールとチャットの違いをもとに、話し言葉と書き言葉の違いの指導の外観についての考察であり、今後、さらなる考察が必要であり、今後のインターネット普及に伴う変化についての考察、及びSNSの多機能が与える学習者への影響の考察も課題である。
参考文献
国際交流基金(2010)『書くことを教える』ひつじ書房
山本雅子・大西五郎(2003)『話し言葉と書き言葉の相互関係―日本語教育のために―」『言語と文化8』愛知大学語学教育研究室
栗山昌子(2004)『日本語指導に向けての誤用分析―助詞を中心に―」『比較文化:福岡女学院大学大学院人文科学研究科紀要』創刊号
橋本学(2006)「第二言語学習者の誤用に関する分析を第二言語教育に活かすための予備的考察」『アルテス リベラス(岩手大学人文社会科学部紀要)』第78号
永友和彦(1990)「誤用分析研究の現状と課題」『広島大学留学生センター紀要』1
石黒圭・筒井千絵(2009)『留学生のためのここが大切文章表現ルール』スリーエーネットワーク
参考URL
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)(2012)「スマホとともに動き出すインターネット大国インドネシア」http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000825/idn_smartphone.pdf(最終アクセス2012年9月17日)
合同会社サーベイマイ(2011)「スマートフォン利用意識調査」http://surveymy.com/downloads/RQA-Smartphonestudy.pdf(最終アクセス2012年9月17日)
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「大学生のトラブル&マナー その事例と解決策」http://www.jasso.go.jp/gakusei_shien/documents/part2_01.pdf(最終アクセス2012年9月17日)
[1] 2010年公開(日本では2011年3月公開)「ソーシャル・ネットワーク」原題”The Social Network” (監督:David Fincher、脚本:Aaron Sorkin、Columbia Pictures提供)アカデミー賞をはじめ、数々の賞を受賞した。
[2] T(Time)P(Place)O(Occasion)の略で、時と場所、場合によって言葉を使いわけること。詳しくは5章参照。
[3] 本稿では、学習者のプライバシーを守るため、名前はすべて仮名を使用する。